
企業が継続的に成長していくには、事業活動に必要な材やサービスを適切に調達し、コストを最適化していくための仕組みづくりが重要です。
本記事では、調達購買の全体像を「調達管理(何を買うか)」と「購買管理(どう買うか)」に大別して整理し、後者の購買管理における基本原則や具体的な業務プロセス、さらには管理統制を強化するためのポイントについてご紹介します。
目次
購買管理とは?調達管理との違い
「調達管理」と「購買管理」は、いずれも企業が外部から材やサービスを仕入れるための一連の流れを扱うものですが、段階や目的が異なります。一口に言うと、「何を買うか」を決めるのが「調達管理」であり、「どう買うか」を決めるのが「購買管理」であるといえます。
調達管理とは、企業の外部調達に係る活動全般を指す
調達管理は「プロキュアメント」ともいい、購買管理を含みつつ必要な材を外部からどのような戦略と条件で確保するかまでを扱う概念です。市場調査やサプライヤ開拓、在庫最適化などの企画要素も含むため、購買管理よりも広い領域をカバーします。また、個別サプライヤの評価・交渉・契約管理を「ソーシング」と呼称する場合もあります。
購買管理とは、調達管理に基づいた要求単位の実務活動
購買管理は、企業が生産活動や販売活動に必要な材やサービスを「いつ・いくらで・どこから」購入するかを適切にコントロールする仕組みです。材の種類としては、製造原価に直接計上される原材料・部品のような直接材、原価に配賦されたり販管費に計上される副資材・研究資材といった間接材も対象となります。これらの発注先の選定、発注・検収、支払までのプロセスを標準化し、業務品質の担保やコスト最適化、内部統制等を図ることが主な目的です。
適切な購買管理が求められる理由
企業が継続的に成長していくためには、コスト削減やリスク管理など多方面での対策が欠かせません。購買管理は、その中でも重要な役割を担っています。ここでは、購買管理が重要視される主な理由を5つご紹介します。
原価低減や販管費削減により自社の利益を高めるため
購買管理が適切に行われると、原材料や備品などのあらゆる調達コストを抑制できる可能性が高まります。購買担当者が発注を行う際に、相見積を実施したりカタログを選定したりといった最適な対応を漏れなく行うことで、高値掴みや無駄な出費を防ぎやすくなります。また、購買部が一括して全社の購買を取りまとめることで、集中購買によるボリュームディスカウントを享受することも可能になります。
調達を計画的に進めるため
企業は、必要な材を必要なタイミングで確実に確保しなければなりません。購買管理では、発注タイミングと数量を適切にコントロールすることで、欠品や過剰在庫といったリスクを抑制します。
また、購買業務を計画的に進められるようになれば、リードタイムの短縮やスムーズな発注・入荷作業にもつながり、全体としての業務効率を高められます。
購買業務に係るオペレーティングコストを削減するため
購買には、発注処理や納期管理、検品、請求・支払など多くのプロセスが含まれます。これらの業務を属人的に行っていたり、異なるツールや手順が用いられていたりすると、手戻りやヒューマンエラーが発生するリスクが高まります。
そこで購買管理の業務フローを整備して、すべての材を同じプロセスで管理できれば、作業の重複やミスを減らすことが可能です。さらに、直接材・間接材それぞれに対応した購買管理システムを導入すれば、オペレーティングコスト(人件費や管理費)も着実に抑えられるでしょう。
不正購買を防止しコンプライアンスを強化するため
購買管理のルールを明確にし、承認の手続きを整備しておくことも重要です。購買担当者が私的に物品を購入したり、架空の発注を行ったりする不正が発生すると、企業の信頼や財務状況に大きなダメージを与えます。
しかし、適切な購買管理ができていれば、担当者が不正を行うリスクを抑え、コンプライアンスの水準を引き上げることが可能です。また、購買の透明性が確保されることで、ステークホルダーからの信頼維持にもつながるでしょう。
サプライヤとの癒着を防止するため
購買担当者とサプライヤの間に不当な利害関係が生じると、賄賂など不正行為のリスクが高まります。不正行為は企業全体の評判や信頼を著しく損なう可能性があるため、未然に防止したいところです。
購買管理の体制が整えられていれば、サプライヤ選定時の評価基準を透明化することが可能になります。加えて複数の担当者による承認プロセスや監査・チェックの体制を組み合わせることで、不正防止と健全な取引関係の維持を実現できます。
押さえておきたい「購買管理の5原則」
製造業における生産管理の代表的な指標として、「Q(品質)」「C(コスト)」「D(納期)」があります。ここに、他社から材やサービスを仕入れるという購買活動の特性を踏まえ、「数量」と「サプライヤ(取引先)」の視点を加えたものが「購買管理の5原則」です。
適切な品質妥当性の評価
まず重要となるのは、仕入れる材やサービスの品質を正しく評価することです。購買活動で調達する材の品質は、自社のものづくりやサービスの提供に直接的または間接的に影響します。
例えば、製品の原材料や要素部品については、高い品質基準を満たす必要があります。一方で、事務用品のような間接材は、必要十分な品質を満たしていれば過度に高品質を求める必要はありません。
このように品質に関する要求定義を明確にした上で、サプライヤの提供するサンプルや実績、検査レポートなどをチェックし、客観的なデータや基準に基づいて品質を評価することが大切です。
適切な価格妥当性の評価
コスト削減や利益率向上を目指すうえで、仕入れ価格の妥当性を見極めることは避けて通れません。ただし、価格だけに着目して安価な材料を追求すると、品質面でトラブルが生じるリスクがあります。
そのため、品質と価格のバランスを考慮し、妥当なコストかどうかを判断するプロセスが必要です。市場相場の比較や見積もり依頼を複数のサプライヤに行うなど、情報を集めてから交渉を行い、妥当な価格条件を引き出すことがポイントとなります。
適切な納期の設定・管理
いかに優れた品質や低価格の資材を確保しても、必要なタイミングに間に合わなければ生産計画や事業計画全体が崩れかねません。納期の遅れは自社の生産遅延や顧客満足度の低下につながるため、購買担当者は十分に注意を払う必要があります。
たとえば、余裕のある発注スケジュールを組むことや、サプライヤに定期的な進捗報告を求めることが大切です。さらに突発的なトラブルが発生しても迅速に対応できるよう、社内外のコミュニケーション体制を整備しておくことも重要です。
適切な発注量の設定・管理
在庫が多すぎると保管コストや廃棄リスクが増大し、逆に不足していると生産ラインを止める原因となります。そのため、購買管理においては必要量と発注タイミングのバランスを取りながら、最適な在庫量を確保することがポイントです。
一般的な手法として需要予測や経済的発注量計算(EOQ)に基づく「定量発注方式」や予め決められたタイミングや安全在庫に基づく「定期発注方式」の活用が挙げられます。仕入れから保管・消費に至るまでのフローを可視化し、社内全体で連携することで、適切な発注量の管理が実現しやすくなるでしょう。
適切なサプライヤの選定・評価
前述までの品質・価格・納期・発注量といった要件をすべて満たすには、供給力に優れたサプライヤの存在が欠かせません。単に安い・近いといった理由だけではなく、企業の信頼度や技術力、納品実績、コンプライアンス姿勢など、多角的な視点から選定することが望まれます。
また、取引開始後も定期的にサプライヤのパフォーマンスをチェックすることで、品質維持やコスト最適化に取り組むことができます。万が一問題が発生した場合でも、日頃からの信頼関係に基づき協力できる体制づくりが重要です。これらを総称した概念が「SRM(Supplier Relationship Management)」となります。
購買管理の主な業務フロー
企業が購買を行う際には、材やサービスの選定から支払いに至るまで、複数のプロセスを経由します。ここでは、それぞれのプロセスにおける作業内容やポイントについて概説します。
選定
企業購買を大別すると、都度見積を行い比較検討を行う方法(ここでは「見積購買」という)と、取引契約に基づき同一材を継続的に購買する方法(ここでは「カタログ購買」という)の二種類が存在します。
見積依頼 | 複数のサプライヤに対して見積を依頼し、価格や納期などを比較検討する |
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カタログ検索 | オンラインカタログやサプライヤの製品カタログから必要な品目やサービスを選び、条件を確認する |
承認
購入する材やサービスを絞り込んだあとは、取引の開始や経費の使用に関して決裁権者の承認を得る必要があります。具体的には、以下のようなプロセスを経ることが一般的です。
契約稟議 | 新規サプライヤとの取引を行うにあたっては、初回において調達方針に基づいた審査や口座開設に係る手続きが必要となります。 |
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物品購入稟議 | 社内の稟議規定に従い、必要性や費用対効果等を記載した稟議書を回付し、上長や主管部門の承認を得るための手続きです。 |
承認ワークフロー | 稟議は承認・決裁を得る行為そのものを指すのに対し、承認ワークフローは申請から決了までの一連のプロセス全体を指します。 |
発注
購入に係る承認を得たあとは、正式な発注手続きを行います。購買管理システムを導入している企業においてはすべてシステム上で実施されますが、未導入企業においてはメール・FAX、Excel等によるオフラインでの作業および管理となります。
発注処理 | 見積選定・カタログ選定や承認ワークフローを経た上で、発注書をサプライヤへ送付する(システムの場合は画面上で発注確定)。 |
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納期管理 | サプライヤ別の標準リードタイムを勘案し、予定納期までの進捗状況の把握や納期遅延が発生した場合の督促等を行う。 |
マスタ管理 | 仕入先、カタログ、発注点など、購買業務を円滑に実施するための各種管理情報を常に最新の状態に維持する。 |
検収・支払
最後に、納品を受けた後の検収や支払い処理を行います。主なポイントは以下のとおりです。
受入検収 | 数量違いや破損等の入荷検品に加え、品質・仕様等が発注内容と合致しているかを確認する作業を含めて受入検収という。 |
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支払処理 | 約定の支払条件に従いサプライヤへの振込を実行する。サプライヤの請求書ベースの請求基準と検収実績に基づく支払通知書ベースの検収基準の2パターンが存在する。 |
購買業務の効率化と内部統制を実現するためのポイント
購買管理を効率的に行うことで、必要なものを適切なタイミングで調達すると同時に、コストや不正リスクを抑えることも可能です。ここでは、効率化と内部統制を両立させるために押さえておきたいポイントを3つの観点からご紹介します。
購買に係るルールと実施方法を定義する
調達購買の基本方針に則り、購買全般に係る運用ルールや業務フローを詳細化する必要があります。対象が直接材か間接材かによって、求められる品質や予算規模、手続きの厳格さ等が異なります。直接材購買においては購買仕様書などが明確に定義されていることが当たり前ですが、間接材購買においては統制が行き届いておらず、属人的な判断や運用に陥りがちです。
役割を分担する
不正防止と内部統制を強化するうえで非常に有効なのが、「発注」「検収」「支払」の工程を分離し、他者同士が牽制し合う仕組みの構築です。例えば、同じ人が発注から検収、支払までを一貫して担当していると、架空発注や納品物の横流しなどの不正が起こりやすくなります。
企業によっては組織配置上の都合や人手不足などにより、実際の運用では発注者と検収者を兼務せざるを得ないケースがあるかもしれません。その場合には、建物やフロアにおける納品の受入口を一元化するなど、別の視点を加えることで牽制機能を担保する方法もあります。
購買管理システムを導入する
多くの購買管理システムが承認ワークフローや受入検収の機能を標準で備えています。また、物品の購買プロセスだけでなく、契約に基づいた支払いプロセスまでを一元的に扱えるシステムも存在します。これらの機能を活用すれば、購買業務の統制やコンプライアンス強化がより効果的に実現できるでしょう。
購買管理システムを導入する際に検討したいポイントを以下に列挙します。
- 見積購買とカタログ購買の双方に対応している
- ローカルカタログと外部カタログをまとめて横断検索できる
- 物品材とサービス材の双方の購買プロセスを統一的に管理できる
- 承認ワークフローを柔軟に設定できる(金額・部門・商品カテゴリなど)
- 会計システムや人事システムと自動連携できる
- 付随するBPOサービスの有無(マスタメンテナンス、購買業務運用、利用促進等)
- 各種法改正への対応(電子帳簿保存法、インボイス制度、下請法)
まとめ
適切な購買管理は、企業のコスト削減やリスク管理に不可欠です。購買管理の実現にご興味がございましたら、見積購買・カタログ購買双方の購買プロセスを一元化し、間接材購買全体の業務効率化と内部統制強化を実現する購買管理システム「SOLOEL」の概要資料をぜひご一読ください。