
企業の本質的な利益率を向上させる方法は、売上総利益率を上げる「原価低減・仕入交渉・価値創造」と営業利益率を上げる「販管費抑制」の二通りがあります。本記事では、後者の販管費抑制を実現する一手法である「間接材のコスト削減」について述べます。
消耗品や工具・器具などの間接材の支出を適切に管理することは、営業利益の改善に確実につながります。一方、個人単位・部署単位で発注することが多く、コストトラッキングが困難であるという根本的な問題を抱えております。
本記事では、間接材の代表的な例、よくある問題点や改善のポイント、そしてコスト削減の方法論までを解説していきます。
目次
間接材とは、主に販管費支出に含まれる多種多様な材やサービスの調達をいう
間接材と直接材の特徴の違い
直接材とは、原材料や要素部品など、製造原価として賦課される材のことをいいます。例えば、自動車製造であれば鋼板エンジンやバッテリー、食品製造であれば食材そのものなどが該当します。直接材は企業が販売する製品やサービスの品質やコスト、納期に直結するため、専門的かつ精密な管理が必要です。また、調達購買担当者は生産計画や販売計画と連動して発注を行う必要があり、在庫管理や納期管理がシビアになる傾向もあります。
一方、間接材とは、企業が調達する直接材以外のあらゆる材の総称であり、事務用品、製造消耗品、役務など、主に販管費に計上される物品やサービスのことをいいます。生産そのものを構成する要素ではないものの、事業活動を遂行するうえで欠かせない資材やサービスです。例えば、製造現場に必要な補助材料や工具器具備品、文房具やコピー用紙などの事務用品、さらには清掃・保守・修理などの役務サービスなどが挙げられます。
間接材はカテゴリーや品目数が多岐に渡り、発注頻度が多くなりやすい一方、要求元である各部署が個別に購入しているケースが少なくありません。そのため、誰がどのくらいの数量をどの条件で購入しているか把握しにくく、購買品目の実態や支出総額の把握が難しい点が企業経営にとって大きな課題です。
補足:販売費および一般管理費
「販売費及び一般管理費」(販管費)とは、企業が営業活動や管理業務を行うためにかかる費用のことを指します。
・販売費
製品・商品・サービスを販売するために直接かかる費用のこと
(例:広告宣伝費、販促費、販売手数料、荷造運賃、接待交際費等)
・一般管理費
企業全体の運営管理にかかる費用のこと
(例:役員報酬、人件費、水道光熱費、地代家賃、通信費、消耗品費、減価償却費等)
代表的な間接材の例
間接材の対象範囲は広く、それぞれの材の特性も大きく異なることから、一つのイメージで捉えることは困難です。ここでは、物品系、サービス系それぞれの間接材の具体例を列挙することで、間接材の全体像を示します。
物品材
事務消耗品 | 文房具、用紙類、トナー・インク、生活雑貨 |
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事務備品 | オフィス家具、什器、事務所備品、医薬品、家電 |
IT・事務機器 | PC、周辺機器、プリンター、複合機、ソフトウェア |
図書 | 書籍、新聞、雑誌、刊行物 |
印刷物・販促物 | 名刺、印章、帳票、封筒、ノベルティ |
MRO | 安全・衛生・静電用品、工具、製造用消耗品 |
パッケージ | 梱包材、緩衝材、フィルム、包装紙、テープ |
理化学・研究資材 | 実験機器、計測器、検査機器、試薬、研究用消耗品 |
サービス材
総務サービス | 車両、郵便、オフィス移転、社食、専門家経費 |
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人事サービス | 人材派遣、採用、研修、福利厚生 |
出張 | 交通費、レンタカー、ガソリン、宿泊 |
マーケティング | 広告代理業務、イベント企画、ノベルティ作成、翻訳・通訳 |
IT・BPO | システム開発・運用、ライセンス、コールセンター |
テレコム | 固定電話、携帯電話、電報、通信サービス |
ロジスティクス | 国内外の発送便、倉庫業務、梱包・物流業務 |
間接材のコスト削減に取り組む際に起こり得る問題
間接材のコスト削減は、様々な要因で難しいのが実情です。ここでは、間接材のコスト削減における代表的な問題とその原因について解説します。
一元管理ができていない
間接材は、オフィス用品のように日常的に利用されるものから、ファシリティやインフラに関連するサービスまで幅広く存在します。こうした多様な支出を一元的に管理する仕組みが整っている企業は多くありません。
間接材の管理が分散しやすい理由の1つは、間接材の利用目的や購入ルートが多岐に渡ることです。また、決裁権限や予算枠も部署ごとに自主自立的に運営されていることが多いため、コスト削減に向けた統一的な取組みの構築が困難な構造となっております。
間接材の種類・数が多い
前述の間接材の代表例に示す通り、間接材は事務消耗品からロジスティクスに至るまで、様々な有形・無形の調達材が含まれます。品目や契約形態が多岐にわたるため、一つひとつを詳細に把握しにくく、利用していないサービスを解約しそびれたり、類似の物品やツールを重複して購入してしまうといったリスクも高いです。
購買が分散化すると、ボリュームディスカウントを活かせないだけでなく、購買管理に係るコストも増加します。また、同じ備品を購入しているにもかかわらず、部署間で情報が共有されていないことで、結果的に過剰発注や高値での購入につながることもあります。
購買プロセスが属人化・ブラックボックス化している
全社的な稟議決裁を要する材や購買部門が主管となる材の調達に関しては、その適正性や透明性は担保されています。一方、自部門の予算内で購入する少額な消耗品等においては、個人の判断で承認プロセスを経ないで発注される可能性が生じます。
また、特定の担当者だけがサプライヤの選定や価格交渉を担っている場合、現状の購買内容が最適なのかを客観的に検証できません。このような属人化が進むと、業務の継続性やコンプライアンスの低下につながる恐れがあります。
サービス・役務のコスト管理意識が低い
社内システムやコールセンターなどのサービス費用、警備や清掃などの業務委託費用、電気・ガス・水道といったライフラインも間接材に含まれます。初期導入時には慎重に選定したものの、その後は契約を自動更新のままにしているといった場合、割高であったり非効率なサービスを継続してしまう恐れがあります。また、ベンダーロックインやスイッチングコストの問題もあり、見直しに対するコスト的・心理的な障壁もあります。
このようなサービス・役務領域におけるソーシング活動の停滞を防ぐには、経営企画部門やタスクフォース等の主導による全社横断的なプロジェクトを組成し、客観的かつ専門的な知見も交えながら評価を行い、より経済的・効果的な方法に切り替える判断を行うことが重要です。
現場担当者に直接のメリットが少ない
間接材のコスト削減は企業全体の利益に寄与しますが、処遇や報酬といった担当者の直接的な動機付けにつながるわけではありません。逆に、今まで自由なタイミングで発注していた備品を一括管理に切り替える場合、担当者にとっては新たなシステムへの入力や申請手続きが増え、手間が増すように感じられることもあります。
経営層や本社管理部門がイニシアチブを取り、現場がコスト削減効果を享受できる仕組みや成果に対する評価制度を構築しなければ、間接材に関する現場のコスト削減意欲を醸成することは困難です。
間接材のコスト削減を進めるにあたってのポイント
間接材のコスト削減を進めるにあたっては、企業全体の支出状況を把握したうえで、組織的にアプローチすることが重要です。ここでは、間接材のコスト削減を企画立案する際に重要となる2つのポイントについて解説します。
間接材を一元管理できる体制を整える
製造業においては、全社またはBU単位にて直接材や生産に係る間接材の調達購買部門を設けていることが一般的です。また、小売業やサービス業等においても、MDや店舗資材等のビジネスの根幹に関わる調達は中央集権的な組織運営が為されます。一方、特定の部門が主管であったり、各部門が自家消費する類の間接材領域に関しては、全社横断的に管理運営する部門を設けている企業は少なく、むしろ先進的であるといえます。
経営的意思決定により、間接材を包括的に一元管理できる組織体制を構築できれば、部署や拠点を横断した情報共有や全量データの把握、専門家集団による高品質かつ恒常的なプロキュアメント業務の執行が可能となります。
購買実績や取引プロセスを可視化する
間接材のコスト削減を具体化するには、まずは企業全体の材やサービスの購買量を数値で把握する必要があります。どの部署でどれだけの支出があるのかを全社のP/L構造の中で把握することにより、経営目線でのスコープ定義やシステム投資の意志決定等が可能となります。
さらに、購買に係る各種の作業時間やコミュニケーションなどの間接的なプロセスコストの把握も重要となります。すべての要求部門単位で現場インタビューを行い、見積・選定・承認・発注・検収・支払といった一連の業務フローとかかる工数を明らかにする必要があります。そのうえで、共通業務フローで一元化した場合のTo-Beモデルとの比較検討を行います。
間接材コスト削減の進め方
間接材の支出を抑えるには、まず全体を把握し、そのうえで具体的な行動に移すことが求められます。ここでは、間接材のコスト削減を実現するにあたっての方法論を段階的に紹介します。
全社的な間接材コスト削減プロジェクトの立ち上げ
原価低減、総額人件費コントロール、経費予算進捗管理といった恒常的な経営管理活動とは異なり、間接材のコスト削減は、今まで責任の所在が曖昧で削減余地が見過ごされていた領域に切り込むアドホックな活動という側面が強いものとなります。よって、トップダウンによりエンパワーメントされた全社プロジェクトの立ち上げが必要となります。
全社の間接材購買状況と総支出総額の分析
会計システムの総勘定元帳(G/L)やワークフローシステムの承認申請履歴などを基礎データとし、要求元部門、費用負担部門、支払先、勘定科目、金額、用途、品目などを可能な限り集計・分類化します。これにより、間接材支出の全体像が一定程度明らかとなり、コスト見直し余地が大きいエリアの特定が可能となります。
取り組みの範囲と削減目標の定義
現状の分析結果に基づき、対象となる材・サービス、部署・事業所といった取り組みの範囲と優先順位付け、ならびに達成すべき目標値とその評価基準を定める必要があります。間接材の裾野は広く、すべてをビックバンで改革することは現実的には困難です。汎用性、購買単価・ボリューム、市況・トレンド、時間軸などの観点から総合的にスコープ定義とKGI/KPIの設定を行います。
組織改編やBPRの検討
グランドデザインの出発点として、まずは「ソーシング(交渉・契約)」や「パーチェシング(購買実務)」を、中央集権的に行うか、分権的に行うか、またはその折衷か、といった組織論の検討から始める必要があります。自社の間接材購買の業務プロセスを「As-Is(現状)」と「To-Be(理想の状態)」でモデル化し、プロセスコストの削減効果やシステムとのFit&Gap分析等も踏まえながら検討を進める必要があります。
間接材購買管理システムの導入
間接材購買管理システムにより会社全体の購買プロセスとデータを統合化すれば、コスト削減効果を最大化することが可能です。導入メリットは大きく以下の三点です。
購買プロセスの効率化 | 承認・発注・支払の処理フローが電子化され、作業時間の短縮と完全ペーパーレス化を実現できる |
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購買コストの最適化 | 全社レベルでソーシングや見積管理ができるため、最適価格や最適サプライヤをすべての要求元部門が一律に享受できる |
分析精度の向上 | すべての間接材購買支出を全量かつアイテムレベルで瞬時に把握できるため、PDCAサイクルを効率・効果的に回すことができる |
まとめ
間接材購買は、対象となる材の種類が多く要求元部門が多岐に渡るため、ブラックボックス化や支出過多などの問題が起こりやすいのが特徴です。こうした課題を解決するためには、まず全社規模で「可視化」を実行し、購買ルールの標準化やソーシングを行う必要があります。また、購買管理システムを導入し、業務フローや在庫状況等を一元管理することで、運営管理の精度が飛躍的に向上するでしょう。
間接材購買管理システムの「SOLOEL」は、物品材の購買からサービス材の契約管理まで、オールインワンのプラットフォームで間接材購買プロセス全体を支援します。「購買業務を効率化し、属人化を解消したい」「企業全体で間接材のコストを最適化したい」などの課題をお持ちの企業様は、ぜひこの機会に「SOLOEL」の導入をご検討ください。